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14年前の、ある殺人事件 (3) [心理・犯罪]

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彼女の(中略)二重生活が世間を驚かしたとき、「東電OLは私だ」と直感した女たちは少なくなかった。その女たちが東電OLと同様の二重生活を送っていたわけでは、もちろんない。たいていは、ごくごく真面目な普通の社会人として生きている女たちだった。
なのに何故、彼女たちは「東電OLは私だ」などと感じてしまったのか。それは、東電OLが象徴する「分裂した自己」を、彼女たちも同じように心の底にかかえているからだ。
手綱を放した途端に暴走し、破滅の淵にダイブしそうな「危うい自分」を、女たちの多くが己の中に意識し、恐れ、ヒリヒリした不安に身を焦がしながら生きているからだ。

(中村うさぎ 『私という病』)



前回の続きです。

女性たちは、いくつもの分裂した自己を抱えている。
それらがあるとき、ちょっとしたきっかけで、暴発する。
中村さんの場合は、それが買い物依存症だった、といいます。


社会的な成功が欲しかった。(中略) だから、まとまった金が入った途端に、自分の成功をブランド物でアピールするような人格が急激に表面化してきたの。それは押さえることもできないほど強大な衝動となって、私をシャネルのブティックに走らせ、そこで初めて「自己実現の快感」に脳天を貫かれたのよ。

(引用同上)



これと構造的には全く同じ、「自己実現の快感」を得るような体験が、
Aさんの身にも起こったのだろう、と中村さんは続けます。


濃い化粧をして男に身体を売る娼婦・・・それまでの彼女の人生にはあり得なかった「もうひとりの自分」が、殻を突き破って躍り出てきた瞬間、彼女は凄まじい恐怖と快感を同時に覚えたはずだ。
「こんな私がいたなんて!」という恐怖、「ついに私は自分になれた!」という悦び。それは、どちらが本当の自分なのか、などという疑問が愚かしくも空疎に感じるくらい、生々しくリアルな快感であり恐怖であったのだ。

(引用同上)



自己実現の快感」が、「生々しくリアルな快感」であった、というのを読み、
まさに、これだ!と。 これは、すごくよくわかる。
目の前の霧が一気に晴れた思い。


ただ、「分裂した自己の暴走」と、「自己実現の快感」というのは、
女性だけに限定された話ではなくて、男性・女性問わず、
そもそも人間とはそういうものなのではないか、という気も。

例えば、男性の場合、危険だったり痛かったりするのがわかっていても、
あえてそれをする人がいる。
例えば、格闘家、冒険家、スタントマン、F1ドライバー、傭兵など。

まあ或いは、普段は真面目で堅い職業の人が、
実はSMにハマッてたり、痴漢行為の常習者だったり、、
というのもあるでしょうけど。。

そこにおける男女の違いは、
それにはまると社会的・倫理的に危険、というのが女性で、
文字通り命に危険が及ぶことを選ぶのが男性、ということかも。

これはこれで興味深いことで、もう少し掘り下げたいけれども、
ひとまず措き、私はちょっと別の観点から。


殺されたAさんに共感を示すだけの女性と、突き抜けてしまったAさんとの違いは何か、
といえば、私が思うに、それは、必ずしも分裂した自己が葛藤しているのではなく、
何に対してより強いリアリティを感じるか、ということではないかと。

基本的にはAさんと同じような状況にありながらも、Aさんのような行動に走らないのは、
なにか強迫観念にでもとりつかれたように、ひたすら携帯いじったりとか、
美味しいお店で美味しいものを食べ、それをブログにUPすることに熱中するとか、
無理にでも予定をいれて空白の時間を埋めていったりとかすることで、

生活になんらかのリアリティを注入し、要するに
なんとか自分をごまかすことに成功しているに過ぎないのではないか、
とも思うのです。

ただ、Aさんのしていたことを、「堕落」と決めつける人も多いようだけれども、
これにだけは、断固として異議を唱えたい。

体を売ることの何が堕落なのか。
これについて話すと長くなりそうなので、別の機会に譲るけれども、
「体を売る」というだけで、その子を白い目で見たり、
全否定するのは絶対に間違っている、とだけは言っておきたいです。


話を元に戻すと、Aさんの行動は、モラルすら飛び越えて、
極端な道に走ることでしか、生きているというリアリティというか、
生の手応えを感じられなかったのでは。
いや、むしろモラルを越えること自体にも、自分を縛る枠組みを取っ払うという、
ある種の解放の悦びがあったのかもしれない。
ましてや、それをずっとそれまでの人生において、強く抑圧し続けてきたとか、
コンプレックスであったのだとすればなおさら。

中村さんのいう「こんな私がいたなんて!」とか、「ついに私は自分になれた!」という悦び
というのは、強烈な生のリアリティ体験とイコールでしょう。

よく世間で「自分探し」などといわれますが、
そして、自分なんて探したところで、本当の自分なんて存在しないんだよ、とか
そんなの結局、人からどうみられたいか、ってことでしょ、
なんてことも、これまたわかったようなことがよく言われますが、そうではなくて

上の「ついに私は自分になれた!」というような「自己実現」の悦びを感じたとき、
人はそれを、「本当の自分」が見つかった、っていうんじゃないかなぁ。



ところで
最近、ジョギングやマラソンにはまる独身女性が多いようで
確かに私の周りにも、何人かいたりするけれど

マラソンは、決して楽しいことではなく、むしろ肉体的にも精神的にも
かなりつらいはずですが、そんな苦しみを乗り越え、
走り終わった後の爽快感、そして達成感は、やはりなにものにもかえがたいものがあります。
(私も経験者なのでわかります)

また、はじめはすぐ疲れてしまったのが、毎日走り続けることで、
だんだん走れる距離が長くなっていったり、早く走れるようになっていったりする。

つまり、自分が成長していくことも、体で実感できる。
肉体的な苦しさ・爽快感と、心理的な達成感。
これは、生きているという手ごたえを感じる実に有効な手段のひとつであることは疑いなく
これが、彼女たちがマラソンにはまる本当の(というか無意識的な)理由ではないか、
と思ったり。

彼女たちの殆どは、結婚もせず、子供もおらず、やりたい仕事についているわけでもなく
これといって熱中できる趣味があるわけでもない、
という共通点を持っており、つまり、それだけアイデンティティも希薄。
要するに、確固たる生の心理的基盤を持ってない。
(あくまでも、私の周りを見ると、だけど)

そのような基盤の欠落、或いは不安定性というものは、人間を不安にするんだけれど
それが例えばマラソンというものを選択することで修復・昇華できるのであれば、
健康的で結構。

しかし、何にリアリティを感じるかによって、例えば過激なダイエットだとか、
危険な選択肢を選び取る可能性は十分にあり、
そんな危険性をはらんだ状況の中で、軽業師的な生活を送っている女性というのは
現代日本には案外多いんだろうなぁ。


だからなおさら、破滅への道を駆け抜けてしまったAさんに共感する、
彼女たちを待ち受けているのも、やはりなんらかの破滅でしかないのか、
そんな恐怖・不安が彼女たちにはあるんじゃないかと。

そう考えれば、健康的に生のリアリティを獲得することと、
「幸せ」ということは、イコールなのかもしれません。


そもそも、こんなことで悩んでいること自体、生活に余裕があるということなのでは。
ちょっと外国にいけば、そんなことすぐ気づくはず。

インフラもろくに整っていない、治安も悪い、伝染病で子供がバタバタ死んでいく、
そんな環境で休みなく働いて、小さい子供をなんとか食べさせるだけで精一杯、、
なんて女の人、地球上には、ざらにいるんですから。

そう思えば、日本で暮らせていること自体に、自然と感謝の気持ちがうまれてくるはず。
もちろん日本にだっていろいろ問題はあるんだけど、
そこそこゆるくてぬるい状態で生きていけることは、確かだから。


今回この事件についていろいろ考えていて、なぜか私は、
デ・ニーロ主演の名作、「タクシー・ドライバー」を思い出しました。

女にとっての破滅は、殺されること
男にとっての破滅は、殺すこと

なのかなあ、などとぼんやり考えてみたり。





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