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森茉莉、花 [イメージ・象徴]

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花というものは大抵の場合、ただ(花)である。(中略)その花は、時には水仙であり、或る日は薔薇であり、又或る時は菫、であったりするだけだ。(中略)小説の中にある、(花)という活字の方が、或いは画家の描いた花の方が、よっぽど新鮮なときがある。(中略)
私たちはどうして、花を見て、ただ(水仙だ)と思ったり、(薔薇だ)と思ったりするような、乾いた状態の中に、日常いるのだろう?熱さも、冷たさもない、空洞の中に、どうしているのだろう?
私はいつも愕いていたい。

(森茉莉 「花市場」、『私の美の世界』所収)




薔薇の香いは菫ほどではないが、柔しくて素直な、若い少女のようで、それでいて底の方に懶いような、惑わしのように勁い力で香ぐ人の感覚に迫るものがくぐもっていて、甘くてどこか恐ろしい香いである。知らないでいて相手を捕虜にする少女のような香いである。薔薇も魔である。

(森茉莉 「エロティシズムと魔と薔薇」、『私の美の世界』所収)





つまり、花はただ美しいのではなくて
その香りまで含めて花である、ということで

だから、花というのは官能的であり、ただの美しい物体を超越したなにかなのであり、
世界中でひとびとを魅了してやまないのだと思う。

引用された、彼女が昔読んだというフランスの詩も素晴らしい。


風のまにまに、ふわふわと、夏水仙の香い、土の香い。
その風薫る橋の上、ゆきつもどりつ人波の、中に混じって見ていると
撫子の花、薔薇の花、欄下にあふれた人道の外まで滝と流れ出る。
花はゆかしや道ゆく人の、裾に巻きつく脚にも絡む、さては車の輪に絡む。



「滝と流れ出る」花のイメージには、クラッとくる。


ところで、「おどろく」ということばを「愕く」と書くのは初めて見たような
きがするけれど
「驚く」よりも、よっぽど、おどろきを表現しているかも、と思ってしまった。

要するに、「驚愕」の「愕」なんだけれど、この字は確かに
おどろいて目が点になった人の顔に見える。
やっぱり漢字って面白い。


よく見たら、「森茉莉」という漢字も、あまりにも植物的なイメージに溢れている。

そして私は、こういった植物的なイメージが大好きなのだ。




薔薇は甘くて柔しいが、魔である。恋の惨劇のあとの血溜りの中に落ちていても、薔薇ならぴったりである。

(森茉莉 「エロティシズムと魔と薔薇」、『私の美の世界』所収)








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