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夢の中の女 [文学・思想]

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向こうは凝っと立っていた。見ると、昔の通りの顔をしている。昔の通りの服装をしている。髪も昔の髪である。黒子も無論あった。つまり二十年前見た時と少しも変わらない十二三の女である。
僕がその女に、あなたは少しも変わらないというと、その女は僕に大変年を御取りなすったと云う。次に僕が、あなたはどうして、そう変わらずにいるのかと聞くと、この顔の年、この服装の月、この髪の日が一番好きだから、こうしていると云う。
それは何時の事かと聞くと、二十年前、あなたに御目にかかった時だという。それなら僕は何故こう年を取ったんだろうと、自分で不思議がると、女が、あなたは、その時よりも、もっと美しい方へ方へと御移りなさるからだと教えてくれた。その時僕が女に、あなたは画だと云うと、女が僕に、あなたは詩だと云った。

(夏目漱石 「三四郎」)



漱石の 「三四郎」の一場面で、
広田先生が、先日見た夢で、二十年前に一度きりしか会ったことのない女が
出来てきて云々、という話をしているところです。

なにがどうということもないのですが
そして何故かよくわからないのですが

私はこの文章がとても好きで
もしかしたら『三四郎』の中で一番好きな場面かもしれません。


夢のような(夢ですけど)、幻覚のような
そして何かキラキラと輝く微光につつまれているような
そんな空気感。

言ってみれば、あまりにも夢らしい夢の雰囲気がリアルに伝わるというか。


自分は年をとっているのに
女のほうは、20年前となにもかわっていない

そこになにか、男性の中にある永遠の女性なるもののイメージのような、
そんなものが反映されているようで
それも美しい。

そしてどこか哀しい。


それも質の高い文学というもの。




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