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海の幽霊の話 [奇想・妄想]

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先日の記事でも少し書いたけれど、
東西不思議物語』が非常に面白い。

これは80年代初頭、新聞に連載されたものをまとめたもので
一篇あたり4~5ページくらいの、短いエッセイが49篇収められおり
どれもすべて澁澤らしく、不思議で幻想的であやしくて、それがまた悉く私のツボで、
夢中になって読んでしまった。

考えてみればこれを初めて読んだときも、まだ私は20歳前後で、澁澤を知ったばかりで、
そのときも結構夢中になって読んだ覚えがあるから
そのとき以来、私の頭は変わっていないということか。。

いいことなのやら、悲しいことなのやら。

でも、冒頭で澁澤は書いている。

「それにしても、不思議を楽しむ精神とは、いったいなんであろうか。おそらく、いつまでも若々しさを失わない精神の別名ではなかろうか。驚いたり楽しんだりすることができるのも一つの能力であり、これには独特な技術が必要なのだと言うことを、私はここで強調しておきたい。」


まあ、それはそれとして
内容といえば、中国、日本、ヨーロッパにおける不思議な話のオンパレードで、
魔法、妖術、鬼神、ポルターガイスト、妖怪、自己像幻視、自動人形、伝説・説話、
百鬼夜行、天狗、悪魔、邪視、夢、空中浮揚、幻想文学、女神、仙境、
不死の人、黒ミサ、、 などなど

要するに、澁澤読者にとってはすっかりおなじみのテーマばかりで
私も今まで同じような話を彼の著作でずいぶん読んでいるはずなんだけれど
それでもやっぱり、はまってしまうなぁ。


で、先日書いたうぶめの話に続いて、私が印象に残ったのは、舟幽霊の話。

平戸藩主・松浦静山の『甲子夜話』にその例が多く出ているらしいのだけれど、
海で溺死した者の魂が、夜、往来の船をまどわすという幽霊の話。


風雨のはげしい夜に、この怪現象が多く現れるとある。まず最初、一握りばかりの綿が風に飛んでくるように、ふわふわ波に浮かび漂っているが、やがて、その白いものがだんだん大きくなってくるとともに、顔かたちができ、目鼻がそなわってくる。かすかな声で、友を呼ぶかと思うと、たちまち数十の幽霊が海上に現れ、波間のあちこちに出没する。
幽霊たちは、船にのぼろうかとするような勢いで、船べりに手をかけ、船の走行を止めようとする。もうこうなると、一同必死で船を漕いでも、容易には逃れることができなくなる。

(澁澤龍彦 「海の怪のこと」、『東西不思議物語』)


これはめっちゃこわい。。

海の上という、逃げ場のない状況だから、余計にこわい。

それに、やっぱり海では人がたくさん死んでいるわけだし
天候が変わって嵐になって船が沈むかもわからないという、常に死と隣り合わせの状況だし
そこにどんな未知の生き物がいるかもわからないし、、 ということで

海というのは人間にとって不安をあおる要素はたくさんあるわけだから
心理的にはかなり異常な状況になることも考えられるし
そういう状況では、恐い話がたくさん生まれるのも自然なこと。

ただ、怖いと思いながらも、そこになんとも言えない、
ハッとするような美しさが感じられるのは、なぜだろう。
ああ、きれいだな、と思っているうちに命をとられる、
というイメージがあるからか。
命と引き換えの美。


と、ここで私が思い出したのは、以前の記事で書いたことがある岡本綺堂の「海亀」だけれど
もしかしたら、この話は、こういった海の幽霊話にヒントを得て、
幽霊を亀に置き換えたものなのかもしれない。

これもかなり怖い話。



澁澤のエッセイというのは、初期こそ晦渋を極めた、ペダンティックで
自分のインテリジェンスを見せびらかすようなものだったけれど
40代以降の彼が書いたものは、その大半が、東西の「不思議物語」だったような気がする。

私にしてみれば、彼自身が、不思議物語そのものだし
不思議物語がない人生なんて、あまりにもつまらない。
その意味では、彼の人生は不思議でいっぱいだったんだろうし
そんな人生をうらやましく思ったりもする。

だから、このブログも、不思議物語で一杯にしたいと思うし
今年、2013年も、どんな不思議物語をこのブログに書いていけるのか
いまから楽しみだったりする。






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