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影を踏まれた女 [奇想・妄想]

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「おせきちゃん、御覧よ。月がよく冴えている。」
要次郎に言われて、おせきも思わず振り仰ぐと、むこう側の屋根の物干の上に一輪の冬の月は、冷たい鏡のように冴えていた。

(岡本綺堂 「影を踏まれた女」)



月を「一輪」と表現する文章は初めて読んだと思うけれど
通常一輪二輪、と数えるのは大輪の花のことであって
そういった意味では綺堂は月を花のようにみたてているわけで、
そのイメージは私にはとても新鮮だった。

先日読了したこの作品集『影を踏まれた女』、
なかなかの美しさと戦慄とに満ちているのだけれど
怪談と銘打っているわりには、どちらかといえば
澁澤の言う「不思議な話」といった内容のものが多いという印象。
(解説には、綺堂作品はモダンホラーだ、などとあるけれど)

でも、それならそれでかまわない。
私は別にホラー好きでもなんでもないので、怖いかどうかは二の次。

ただ、欲を言えば、もっと美しいイメージとか、スピード感が欲しかった。
こういうことがあった、不思議なことである、というストーリーテリングに
終始しているかんじが強いので。

例えば中上健次の『重力の都』とか、谷崎の「お艶殺し」、
或いは安吾や芥川あたりのいくつかの作品にも見られるような
ある瞬間を境に急転直下的に斬り込んでいくような鋭さがあれば、
もっと凄みのあるものになるだろうに、と思えて、それが少し残念。

また、以前読んだ『白髪鬼』は、以前の記事で書いたことがあるけれど、
とても静謐で美しい、異界的なイメージに満ちていた。

とはいいながらもやはり、こちらも全体的には美しく、よくできた短編集で、
まあ全部とは言わないまでも、優れた作品が多く、非常に面白かった。

印象的だったものを以下にあげてみる。


「利根の渡し」 昭和の時代劇的な空気も感じる。凄みがあってかっこいい。

「一本足の女」 美しい女のために身を滅ぼす男。こういうのは無条件に好き。

「笛塚」 不思議な話でもあり、美しい話でもあり、人間の運命を一本の笛が左右するという
  そのモチーフも面白い。武士道的な美学もあり。







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