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The COLLECTOR [映画・芸能]

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最近見た映画「コレクター」(1965)が、かなりよかった。


蝶を収集することを生きがいとする青年が、好きな女の子を路上で拉致、
自宅に監禁するというお話。

これだけ聞くと、極めて猟奇的な映画のように思えるけれど全くそんなことはなく、
むしろ対話劇である。

ヒッチコックの「サイコ」と並び称される、サイコ・サスペンスの傑作、
みたいな評価をうけているようだけれど、
この2つは全く別物だと思う。

「サイコ」は、異常なものを描くことで、スリルとサスペンスを生み出しているけれど、
「コレクター」においては、異常性は殆ど描かれていない。

もちろん、全編にわたって、独特の緊張感が張りつめていて
スリリングではあるにしても、
女性を地下に監禁する主人公(テレンス・スタンプ)の態度は極めて紳士的で
食事を運ぶときなど、彼女に接するときは、常にダークでスリムな、
当時流行していたと思われる、モッドなスーツをキメており
一見、まったく犯罪者・異常者には見えないし
彼女を監禁する部屋も、ホテルのスイート並みにしつらえてある。

しかし、話がすすむにつれて、彼のふつうではない部分が徐々に露わとなっていく。
それはテレンスの演技力によるところも大きいと思われるけれども
問題なのは、そんな彼の「異常性」ではない。
この作品の白眉は、


「ライ麦畑でつかまえて」、こんなもの何が面白い?

ピカソの絵が素晴らしいって?
こんなものは Bad Jokeだ、君がこれをほめるのは、偉い人がほめたからだろう、
君たちはそれで優越感を味わう、

くだらない、下品だ!

といって、テレンスがピカソの画集を破り捨てるシーン。


私はここで、泣きそうになった。


社会に溶け込めない人間の悲しさ、嫉妬、疎外感、
まさに異端者の悲しみがここで爆発。

そして、愛に飢え、誰かを愛したい、愛されたい、と思いながらも
こういった形でしか、愛する人に接することができない、
そんなあまりにも悲しい不器用さ、繊細さ。
他者に自分を理解してもらいたくて仕方がないのに、こういった異常な方法をとることしかできない
その絶望的な試み、心の闇。。。

この映画のポイントはそこにあって、少なくとも、上のシーンには、
監禁されている女・監禁する男、という関係性は意味をなさない。






そこそこいい家に生まれ、何不自由なく過ごし、
偏差値の高い私立の学校に行って、好きな勉強をやって、
週末ともなればパーティ、いつも友達に囲まれていて、恋人もいて、、、

そんな、今でいう勝ち組或いはリア充ってやつ?な人生を送ってる人もいれば、

そういう生活に憧れ、でも、貧しい家に生まれてロクに学校にも行けないため
そんな生活を送ることは到底ムリで、
たいした仕事にもつけず、友達も恋人もおらず、鬱屈した毎日を送っている、

そんな人間だっていっぱいいるのだ。

前者を代表するのが、監禁された女の子であり、
後者を代表するのが、主人公である。

これはイギリスが舞台だから、これは階級差による問題とか言われそうだけれど
実際は、日本だって似たようなものである。
アメリカだってたぶんそうでしょう。

この終り方からして、作り手側は、このような人間を肯定、とまで言わないまでも
少なくとも、そんな人間の側に立っている、といえる。

とはいえ、そこにはなんの救いもないのだけれど。


学生の頃、この作品を小説で読んだことがあるけれど
確か、監禁された女の子の日記というかたちで、
彼女の内面やキャラも描くのに大幅にページが割かれていたように記憶している。

それに対し映画の方では、女の子の内面はあまり描かれず(逃げることばっか考えてるし)
監禁する男の方の疎外感や悲しみに重点が置かれている。

結局、彼女は、彼の悲しみを理解することなく、自分のことしか考えておらず、
2人は平行線のまま終わってしまう。
彼らが代表する2つの階級というのは、結局、理解しあえないものなのだ、
或いは、彼女の階級が彼の階級を理解しようとすらしない、というところか。



ところで、驚いたのは、この作品の監督、ウィリアム・ワイラーはなんと
ローマの休日』や『ベン・ハー』など、映画史に残る大メジャー作を撮った人、
だということ。

だって、彼は、絵に描いたような成功者、リア充側の人間では?
どうしてそんな人が、こんなリア充弱者の側に立った映画を撮れるのか。。
人間というのはつくづく、フシギなものだなぁ、と。



ちなみに、私も「ライ麦畑でつかまえて」を20歳くらいのころに読んだけれど、
何が面白いのか全くわからなかった。

現代日本に置き換えれば、村上春樹といったところか。
そういえば、彼は最近「ライ麦畑でつかまえて」の翻訳をしてた。

私は、ピカソはぜんぜん好きじゃないし、村上春樹は嫌い。
だからこそ、この作品を見て感動したんだと思う。

そうじゃない人には、ただのわがままで自己中な変質者の犯罪映画、
っていう作品にしか見えないんだろうな。

やっぱり、平行線なのか。




* * * * *


ところで、男が女を拉致し、自宅に監禁、と聞くと、
ものすごい変態、猟奇的犯罪、というイメージがまず浮かぶけれども、
そして社会的にもそうみなされているけれども、

これが逆だったら。。?

つまり、女が男を拉致・監禁、だったらどうだろう?
ぜんぜんイメージが違う。

まず思い浮かぶのは、古代王国の女王だとか、
叶○子さんの、メンズコレクションだとか、、
とにかく、何やら、やたらゴージャスでデカダンスなイメージを思い描いてしまうのは
私だけだろうか。。


まあ、それについてはまた後日。



<追記>

スミスの"what difference does it make" のジャケがコレクターだったことに、
今日気づいた。


What Difference Does It Make

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Rough Trade
  • メディア: CD



発売当初、テレンスがこれに難癖をつけ、
一時的にモリッシーの写真がこれに差し替えられたのだとか。

http://thebrokenhearted3.wordpress.com/2013/02/04/what-difference-does-it-make/

でも、いまとなってはこのモリッシー版の方が激レア。
こんなの初めて知ったし。






コレクター [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD



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  • 作者: ジョン・ファウルズ
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 1984/07
  • メディア: 新書



The Collector (Vintage Classics)

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  • 出版社/メーカー: Vintage Digital
  • 発売日: 2010/10/31
  • メディア: Kindle版



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  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • メディア: Blu-ray



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