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G・マルケス/エレンディラ [文学・思想]

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先日の記事にも書いた通り、最近購入した、ガルシア・マルケスの短編集、
エレンディラ』を読んだ。

まずは『百年の孤独』が先かな、と思っていたのだけれど
なぜかこちらが気になって、読み始めたら面白くて、
一気に読んでしまった。

なんとも不思議な作品ばかり。
このような感覚を覚える文学作品は、いままで殆ど読んだ覚えがない。
少なくとも日本文学にはないと思う。
久生十蘭や石川淳くらいか。

単純に、読んでいて面白いし、日本文学とも仏文学とも英米文学とも違う、
なかなか不思議に美しいイメージに満ちている。


中南米の芸術全般を評して魔術的リアリズムということがよく言われるけれども、
この作品集などはまさにその典型ではないかと。

そもそも虚構であることを前提とし、ある意味安心して読んでいられる幻想文学よりも、
虚構なのか現実なのか判然としない魔術的リアリズムのほうに、
より目くるめくものを感じる。

そこにこの世界の重層性が姿を現し、私の中の何かがざわつく。
それは恐らく、そこに人間の生活史だとか祈りのようなものが
刻み込まれているからなのだろう。
それはつまり人間を描き、世界を描くということなのだ。

それが物語の魔術性であり、物語の本来の力と、凄みというものなのだろう。


物語の力、血のにおいや腐臭といった生理的なリアリティという意味では、
中上健次的なものを感じるけれども、
それほど重くはなく、もっと軽快なものを感じる。

実話に基づいたリアルなお話のようでもあるのと同時に、
血腥く、荒唐無稽な、おとぎ話でもあるような、というか
次々に不思議なことが起こるのだけれど、それが何も不思議でないというか
なんてことのない日常の風景のように描かれていることの不思議。

解説が非常に秀逸で、中南米文学ガイドとしてもとても参考になる。
中南米諸国には行ったことがないけれど、これを読むと、
まあ、驚くべきエピソードや逸話というのは、眉唾だろうけれども
われわれの常識では考えられないようなことが日常的に起こったり
考えられないような世界が広がったりしていることだけは、間違いないような。

そこで語られている以下のエピソードが印象的だった。すなわち、

訳者の木村栄一さんが、あるときコロンビア人と話していて、
ガルシア・マルケスの『百年の孤独』の一場面、
町娘のレメディオスが白いシーツにくるまって昇天するシーンが実に幻想的で、
ガルシア・マルケスらしい、というと、そのコロンビア人は、
それは作り事ではない、と言ったとのこと。

その人が言うには、
女性が香水をつけて海岸を歩くと、香水のにおいに引き寄せられて
無数の蝶が彼女の体に群がるのだという。
その様子を遠くから眺めると、眩いばかりの日差しの中で、
女性が蝶とともに天に昇っていくように見えるのだという。

ガルシア・マルケスもおそらくそうした光景を実際に目にしたことがあって、
あのようなエピソードを入れたのでしょう、とのこと。

無数の蝶に包まれた女の子が、眩いばかりの光の中を
天にむかって昇っていく。。

なんという美しいイメージだろう。

そのあまりの美しさに、私は衝撃に近いものを感じた。



不思議な国、というとまず思い出すのはインドだけれども、
インドとはまた違った意味で、面白い、不思議なところなのかもしれない。



とにかく、今まであまり読んだことのないような文学というか、新鮮だったし、
俄然、中南米文学に興味がわいてきた。

ガルシア・マルケスといえば、先日も書いたけれども、
『百年の孤独』がずいぶんと長いこと、積読状態になっている。

ついでに言うと、ボルヘスの作品も。

これを機に、一気に読破したい衝動にかられている。





エレンディラ (ちくま文庫)

エレンディラ (ちくま文庫)

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  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1988/12/01
  • メディア: 文庫



予告された殺人の記録 (新潮文庫)

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  • 作者: G. ガルシア=マルケス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1997/11/28
  • メディア: 文庫



百年の孤独 (Obra de Garc〓a M〓rquez (1967))

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  • 作者: ガブリエル ガルシア=マルケス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
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ユリイカ 2014年7月号 特集 ガルシア=マルケス -『百年の孤独』は語りつづける-

ユリイカ 2014年7月号 特集 ガルシア=マルケス -『百年の孤独』は語りつづける-

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予告された殺人の記録・十二の遍歴の物語 (Obras de Garc〓a M〓rquez (1976-1992))

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  • 作者: ガブリエル ガルシア=マルケス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/01
  • メディア: 単行本



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