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金沢・鏡花 [文学・思想]

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(さっさっさっ。
 しゅっしゅっ、
 さっ、さっ!)
 と曳々声で、水を押し上げようと努力る気勢。
 玄武寺の頂なる砥のごとき巌の面へ、月影が颯とさした。

(泉鏡花 「海の使者」)




最近、久々に、鏡花を読んでる。

いうまでもないことだけれど、
とにかく、鏡花の文章はあまりにも美しく
三島が澁澤との対談で言っているように、
別世界へ連れて行かれてしまうのだけれど

それはつまり、文章自体の、日本語としての美しさ、格調の高さ、
という意味では
ほかにもたくさん美しい文章を書ける人はいると思うのだけれども
鏡花の作品を読んで私がいつも驚かされるのは
そのイメージ喚起力の強さ。


電燈の球が巴になって、黒くふわりと浮くと、炬燵の上に提灯がぼうと掛かった。

「似合いますか。」

 座敷は一面の水に見えて、雪の気はいが、白い桔梗の汀に咲いたように畳に乱れ敷いた。

(「眉かくしの霊」)



こんなにも清冽で、水晶玉のように透明な世界が
文章の向こう側から立ち上がってくる、

これはやはり、天才にしかできないこと、なんだろうなぁ。

鏡花作品を読むという体験は、イメージの桃源郷に招待されるという
実に贅沢で、豪奢なことであるけれども(しかもローコスト)
残念ながら、鏡花文学を外国語に翻訳するのは、ほぼ不可能だろうし
(たとえば、「夜叉ヶ池」は、"Demon Lake" となって対訳版が出ている。
「夜叉」にあたる英語なんてないだろうし、Demonでは全くニュアンスが違うし、
翻訳者の苦労がしのばれます)

つまり、鏡花作品を読んでイメージの海に浸れるのは
世界で日本人だけなのでは、

そう思うと、
日本人にうまれたということは、なんと幸運なことか、と思わずにいられない。



3/14、北陸新幹線が開通した。
最初の北陸新幹線が
金沢駅についた様子が、テレビで実況中継されているのを見た。

私は、鉄道好きでもなんでもないけど、なぜか、
むしょうに感動してしまった。

私はやはり、金沢という町が好きなので。
京都と似ている部分もあるけれど、京都ほどの重苦しさ、血腥さがない。
いい意味での軽さがあって、そこがいいんだと思う。

そして、先日、久々に雑誌「太陽」の鏡花特集
(88年10月号。これは本当に、息をのむほどに美しい本)
を本棚からひっぱりだして読んでみて、
やっぱり鏡花作品と金沢は、きってもきれないものがあるんだなー、
とあらためて思ったり。

そして日本という国にも
まだまだ私の知らない美しい土地があるんだろうな、と思う。


今後は、新幹線開通をきっかけに、一気に金沢への注目度があがるだろうし
事実、金沢や富山に進出する東京の企業も多いらしい。

それに伴って、鏡花にも注目が集まる。。

といいんだけど。

それはないか。




三島 鏡花が連れて行くのは天国か地獄かわからない。あれは煉獄だろうか。

澁澤 煉獄或いは天使界か、とにかく地獄でも天国でもない、その中間の澄み切った境地じゃないですかね。

(三島由紀夫・澁澤龍彦 「鏡花の魅力」)






http://kg.kanazawa-gu.ac.jp/kokusaibunka/?p=2360

http://www.worldcat.org/title/yashagaike-demon-lake-waei-taiyaku/oclc/675684361




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  • 出版社/メーカー: 岩波書店
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春昼(しゅんちゅう);春昼後刻(しゅんちゅうごこく) (岩波文庫)

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三島由紀夫おぼえがき (中公文庫)

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澁澤龍彦全集〈19〉 ドラコニア綺譚集,ねむり姫,三島由紀夫おぼえがき,補遺1983年

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  • 作者: 澁澤 龍彦
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 1994/12
  • メディア: 単行本



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