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「廓」のこと [映画・芸能]

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先日の記事で紹介した皆川博子さんの『花闇』の中に、
役者は庶民の間に人気がありながらも、身分が低いだとか、
芝居を見せるところは、芝居町といって、遊廓/花街のように、
一種隔離された場所にあったり
というようなことが書いてあって、
芝居をめぐる事情というのは、江戸末期と現代とでは、随分と違うのだということに
改めて気づかされたのですが

これはなかなか興味深い、と思って少し調べてみると、
雑誌「國文学 廓 -江戸の聖空間」に非常に面白いことが書いてあった。

郡司正勝によれば、城廓や遊廓ということばに含まれる「くるわ」という文字は
囲い込まれた空間を意味し、
芝居町もやはり廓で、その仕事に従事する者は、廓の外に住むことは
許されなかった。
つまり、一方的に隔離された、「悪所」であると。

つまり、芝居町も遊廓と同様に悪所なので、そこで生活する人間もやはり
身分が低い、ということになるのでしょうか。

しかし、彼らは決して他の身分の人間から忌み嫌われたり蔑まれたわけではなく
むしろ愛されていたのでは、と思うのですが。


「この二大悪所が、江戸時代の二大文化の源泉となるのである。G・B・サンソムは、『日本文化史』の中で江戸文化の「その主役は遊女と役者であり」、絵画に、音楽に、演劇に、流行に、風俗に、すべて江戸芸術のモデルはこの廓の遊女と役者によって演ぜられているのだといっていいと述べている。
その遊廓が人肉の市と転落したのは、明治以後、西洋文化ないし教育のためだといってよかろう。今は亡き遊廓とは「嘗てあった天国」であり(中略)、今日、地球から消滅せしめられた聖空間であった。施政者側にとっては悪所であり、民衆にとっては天国であったという二重性が、この空間の特徴である。」
(郡司正勝「廓のこと」 國文学 郭 -江戸の聖空間 1993)



すごく、納得ですね。
まあ、要するに、「悪所」だなんて言ってるのは、お上でしかなく。
そして、優れた民衆文化を潰すのは、いつの時代もお上、ということなのでしょうね。


ところで、どうして芝居町と遊廓という、一見あまり関係がなさそうなものが、
「二大悪所」としてひとくくりにされてしまうのか、
芝居と遊廓が切っても切れない関係にあるのか、
ちょっと不思議な気もしますが、これも以下を読むと納得します。

「もともと芝居と廓は別のものではなかった。かぶきの始祖阿国は、歩き巫女といわれ、遊女とは別ものではなく、また「かぶき踊」は遊女とかぶき者の遊びのものまねの表現に始まるのである。(中略)
遊女が舞台から追放されて廓の中に強制隔離させられ、かぶきは男性の役者によって独自な芸の道を辿ることとなる。それでもかぶきは傾城買の世界を離れて育つことができず、かぶきから廓場や遊女を追放しては成立覚束なく、かぶきの花である女形の魅力は、その手本を最高の遊女を規範としたものであった。」
(引用同上)



私は歌舞伎の歴史にはまったく疎いのですが、
そのへんを調べてみると、面白いかもしれません。


時代が明治になると、このふたつのうち、遊女は「娼婦」となって不当にも転落させられ、
芝居は「芸術」として「昇格」します。
(「芸術」をありがたがり、「娼婦」を貶める、というお上の発想は死ぬほど嫌いですが)

『花闇』のラスト近く、芝居町の役者たちは、明治になって、
政府の閣僚に呼び出され、西洋の芝居は上品で高尚な、紳士淑女のものだ、
日本の芝居もかくあるべし、などと、しょーもないことを言われ、
要するに、当時の芝居町で上演されていたような彼らの芝居は、
否定されるのです。

そして、そのようなスローガンのもとに、新しく劇場が作られ、
杮落としが行われたとき、
そこに集まった観客の姿は、それまでとは全く違った、
高級官僚ばかり。

江戸の客は、どこにいっちまったんだ。。 
と、芝居町の住人であり、江戸末期の天才役者・田之助の影である三すじは、
これを見て、愕然とするわけです。

このシーンには、いろんなものが込められていて、とても映画的で、
グッとくるものがあります。


ところで遊廓というのは、昭和の時代劇映画を見ていると、結構頻繁に
出てくるのですが、それはもう、夢のように美しくて、
私はそれが大好きで、それを見ているだけでも、うっとりしてしまいます。

それは、江戸時代の遊廓だけでなく、明治から昭和初期を舞台にした
仁侠映画などにおいてもそうです。

江戸から昭和初期の遊廓というのは、どうしてこんなにも美しいのか。
戦後のいわゆる「赤線」とは、何が違うのか、
今でも東京のどこかに存在するのか。
或いは、これは、日本だけなのか、世界中どこでもそうなのか。。

このあたりは、今後考えて行きたいと思っているところなのですが

美しいのはその廓という空間だけでなく、
そこに暮らすいわゆる遊女というのも、美しくて、人間くさくて、
きっぷがいいというか、粋で、且つ退廃的で、ほんとにかっこいいのですが
日本映画史上、もっともかっこいい遊女を演じたのは、なんといっても
太地喜和子さんでしょう。

その喜和子さんが出演した大傑作「座頭市・折れた杖」は、
座頭市シリーズが、映画版・テレビ版含めその殆どがDVD化されている中で、
DVD化されていなかった作品なのですが、このたびめでたく、
DVD化されたという情報が。

で、
早速購入!

これがまた凄い。。

これに関してはまた後日。




ところで、

聖、世、政、生、性

これらの文字が、日本語ではいずれも同じ発音である、というのも面白い。
偶然なのか、それとも意味があるのか。。





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橘小夢, 地獄太夫

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