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本日のお題:白熱教室・ロゴス・ソフィア(1) [ひとり妄想対話篇]

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- (おんな編集者A)先生、ハーバード大のサンデル先生の、白熱教室って、ご存知ですか。

- (先生B)ああ、なんか随分流行ってるみたいだねえ。NHKで何度も放送されているようだし、彼の本は、政治哲学系の本にしては非常に珍しく、ベストセラーだそうじゃないか。

- そうなんですよ。私も結構あれ見てたら、興奮するっていうか、引き込まれるんですよね。で、サンデル先生の本も買っていま読んでるし、最大多数の最大幸福だとか、最近は、いろいろ考えちゃうんです。

- そうかい、君はなにも考えないで生きているとばかり思っていたが、そうでもないんだな。

- またそんな、憎まれ口を。。

- いや、これは決して憎まれ口でも嫌味でもないんだよ。何も考えず、悩むこともなければ、それはそれで毎日楽しくて、ハッピーで、結構じゃないか。

- 確かに、私はあまり悩んだりすることもないですし、だから結構ハッピーですけど。。 でも、みんなで世の中の問題について議論するってことも大事だなって、最近思うんです。

- まあ、それはそうだ。 社会のルールを決めたり、問題を解決していくにあたってはね。とはいえ私はあまりそういったアクチュアルな問題には興味がないんでね、積極的に議論に参加したいとは思わないが。
まあ、議論の内容うんぬんより、そうやって、ふだん使わない頭の部分を使うのも楽しいかもしれないな。

- (ホント、ひねくれてるんだから。。)そうですか。。 でも、彼の授業は、テレビでご覧になったりしました?

- うん。面白かったよ。

- それを見て、先生ならこう考えるとか、何か気になるテーマなどは?

- まあ、基本的に、全て面白いと思うし、なにより、学生には、刺激的なんじゃないか。ああいったことに、若い人が知的興奮を覚えるのは、いろいろ考えたり、議論するきっかけになって、いいんじゃないかな。 
しかしそれ以前に、彼は本当に見事だな。教師として、司会者として、その手腕は素晴らしいね。。授業を一つのエンターテイメントと化している。綿密に計算されたと思しき、シアトリカルな演出にも長けているし、センス・オブ・ユーモアも兼ね備えている。極めて知的な人物だね。

- あら、先生にしては珍しく、手放しで絶賛ですね。なにかひっかかることはないんですか。

- もちろんあるさ。 そうだな、まず思うのは、彼のいうように、健全な議論が、健全な社会を作っていくことも事実だが、大事な点が抜け落ちているんじゃないかな。

- といいますと?

- たとえば、「君はどう思うか?」と聞かれて、「xxxだと思います」と答えたとしよう。しかし、「それはなぜだ。その論拠はなんだ」と聞かれても、うまく説明できないけど、そんな気がするのです、と答えてしまったら、議論にならないね。
つまり、彼は、みんなで議論をしよう、と言うが、果たしてそれはうまくいくのかどうか、大いに疑問なんだ。
というのも、議論には、或る程度以上の知性、スキルが必要だからだ。知的に未熟な人、といっては語弊があるね、つまり議論のスキルが未熟な人は、スキルのある人に、言い負かされてしまう。その人が言っていることが正しいかどうかにかかわらずだ。 まあ、日本では、声の大きいやつが勝つ、なんて言うけどね。
だとすれば、結局、議論に長けているものが勝ち、そうでない者の意見は、少数派として退けられてしまう危険性があると思うんだが、サンデル先生は、それには触れていないようだね。

- うーん、言われてみれば、そうかもしれません。

- 彼の授業は、いいかい、ハーバードで行われている、ということに注意しなければいけないね。そのへんの市民会館で行われているカルチャー教室かなにかではないんだ。世界でもトップクラスの知的エリートが集う場所だ。まあ、その割には、学生の言っていることは、凡庸なものばかりで面白くもないが、それは置いておくとして。。
だから、まあ仕方がないんだが、端的に言えば、社会をリードする知的エリート側の発想なんだよ。非エリートのことは想定外になっている、という印象を受けたね。 
まあ、だからこそ、これを見る人は、自分もこの知的な空間に参加しているような気になって、ちょっと知的になったような気分が味わえる、それも彼の授業が受ける理由のひとつだろう。

- うーん、そうかもしれませんね。私も、ちょっと知的になったような気がしてました、正直。。

- とはいっても、それは大して重要じゃないんだ。ろくに議論もせずに、力のある者のいいなりになってしまうよりは、よっぽどマシだろう。重要なのはむしろ、彼の提示した方法論が日本の知識階級に与えたインパクトの方だね。まあ、結果的に、彼がなにかいい影響を日本に与えてくれれば、それでいいとは思うよ。
でも、私は、そこであまり楽観的にはなれないんだ。というのも、そうやって、彼の言うことを真に受けて、やたらと議論好きな人間が増えて、さらにはなんでもかんでも、議論するような風潮が生まれたら、それは危険なんじゃないか、と思うからなんだ。

- 危険、ですか?

- うん。 具体的には、議論によって、新たな軋轢を生じるのではないか?ということだ。 まあそれについて話をする前に、まず、日本人に議論は可能か?そして、そもそも日本人に議論は必要か?ということを考えてみよう。
だいたい、日本とアメリカとでは、文化的土壌も違えば、国の成り立ちもぜんぜん違う。つまり、議論の「必要性」が全く違うことは、改めて言うまでもないだろう。

- そうですね。日本はほぼ単一民族、単一文化といってもいいと思うんですけど、アメリカは、いろんな国から移民が入ってきて、いろんな文化や民族、価値観が乱立した社会ですから、それをうまくまとめていこうと思えば、議論が必要になる、ということですね。

- その通りだね。 逆に、日本では一般に、和を重んじて、ともすれば議論=言い争いと捉える向きがあるね。 つまり、きちんとした議論を行う土壌がないように思う。
そこで、だから日本はだめなんだ、きちんと議論をしなければいけない、などと言う人がいるけれども、私は、そうは思わない。 というのも、これでいままでうまくやってきたんだから、それはそれでいいじゃないか、とも思うからね。議論をする、しないということ自体は、良いこととも悪いことともいえないんじゃないか、むしろそれが必要かどうかだ、という気もするな。 

- そうかもしれません。

- だから、そんな歴史と文化を持ったこの日本に、いきなり、議論することを良しとする考えを導入したところで、うまくいくとは思えないな。むしろ新たな軋轢を生む危険性の方が高いと思う。まあ恥ずかしい話だが、私自身も、学生のときに、それまで仲の良かった友人が、政治について議論を交わして意見が対立した途端に、疎遠になってしまった、という苦い経験があるよ。
結局、単なる言い争いになって、個人的なうらみや嫌悪感情、遺恨を残したりなど、そもそも存在しなかった余計なものを、議論が生んでしまうことになりかねない。
西洋からきた、日本の文化とはあまりなじまないものを性急且つ無批判に取り入れ、その結果いろんな齟齬を生じてしまう、というのは、今まで日本はずいぶん経験してきているね。 また、それを繰り返しそうな気がするよ。

- そういわれてみれば、確かに。日本人って、議論が下手だと言われていますし、そもそも議論をするような環境で育っていないですもんね。学校でも教えないですよね。

- そうだね。 まずは、だから、純粋に技術としての習熟度の問題がある。 次に、いま言った、文化的土壌の違いがある。 でもそれだけじゃない。それは、これらの2点とは全く次元の違う問題だ。
つまり、たとえば、さっき言ったように、自分はこう思うけれど、ではなぜそう思うのかと聞かれても、それはうまく説明できない、というのは、必ずしも未熟だからとも限らない。それは、理屈じゃないんだ、だとか、説明するまでもないだろう、という、その共同体で暮らす人間であれば、誰もが持つべき、そうだな、共通感覚とでもいえるものもあるんじゃないか。
それを、ちゃんと説明しなければ認められない、なんて、全て理詰めで世の中が回っていくことになったら、それは随分恐ろしいような気がするね。
ところで、ちょっと話が逸れるが、最近の若者が話しているのを聞いていると、二言目には、意味わかんね、というよね。これは、理解力や想像力に欠けているとも言えるが、寧ろ、言わなくてもわかる、といったような、日本人が持つべき共通感覚、感性が欠けている、ということなのでは、という気がする。そう考えると、ちょっと怖いような気もするよ。

- なるほど。。 確かに、そうですね。

- 話を戻すと、じゃあ、その理屈じゃない部分って何か、それをどうやって受容或いは表現するのか、といえば、例えばそれが文学の役割なんじゃないか、と思うんだ。 
そこで、それを考える前にまず、そうだな。。 彼のいう議論というものを、ロゴスとソフィア、という視点から考えてみようか。

- ええと。。 ロゴスとソフィア、ですか。。?

- うん、じゃあ、まずロゴスとソフィアということを、一旦クリアにしておかなければいけないね。まあ、話が長くなったので、続きはまた次回ということにしよう。




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