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フランス ロマン主義について [フランス]

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フランスのロマン主義というと、
たとえば絵画でいえばドラクロワのような、
ドラマティックなもの、リアルなものなど、
或いは文学でいえばユゴーのような、大河ドラマ的なものを連想してしまいがちだけど、

私の中でのロマン主義といえば、現実社会に絶望し、
現実よりも幻想・神秘を重んじた傾向を持つようになった芸術家たちが
古典主義的なものに反発して起こした運動、
そんなものだと思うのだけど
それを教えてくれたのは、澁澤龍彦だった。

(いわゆる正統的・教科書的な解説では、これらの運動は
「小ロマン主義」といわれている。何が「小」なんだか。。)

たとえばそれは、『悪魔のいる文学史』などにも詳しく述べられているけれども、
怪奇小説傑作集4 フランス編』の解説で、簡潔に解説してくれている。

曰く、19世紀初頭、当時のフランス文学といえば、17世紀以来の理性万能のフランス文学、
そしてヴォルテール的な知性、節度と均衡と調和を重んじる古典主義の時代。

そんな状況に対して反逆を試みたのが、ブルジョア革命後の当時の若い芸術家たちで、
1830年の世代(七月革命の年)と呼ばれる彼らは、大革命後の社会の反動化を
身をもって体験した、不安と絶望の世代。

政治的挫折により、彼らのメランコリー、幻滅、虚無感は、
ブルジョア的金銭万能主義に対する嫌悪などと相まって、研ぎ澄まされていった。

大部分の作家たちは、そんな時代を冷静に見つめつつ、絶望感を克服、
作家として体制に順応しながら生活していくわけであるが、

何人かの少数者は、あくまで堪え難い現実から目をそむけ、しばしば神話や幻想の中に慰めを見出し、ますます現実嫌悪の傾向を深めつつ、あげくには、狂気したり自殺したり、文学的落伍者となったりして滅び行くのである。
ロマン主義の運動とは、もともと論理に対して非合理的なものを、知性に対して無意識的なものを、歴史に対して神話もしくは伝説を、日常的現実に対して夢を、昼に対して夜を、それぞれ称揚する精神の運動にほかならなかったが、彼ら少数の過激派によって、この傾向はさらに幻想的、怪奇的、反社会的、無政府的、神秘主義的な方向にまで助長されたのである。
この過激派の中に、シャルル・ノディエ、ジェラール・ド・ネルヴァル、テオフィル・ゴーティエ、ペトリュス・ボレル、グザヴィエ・フォルヌレなどの面々がいた。

(澁澤龍彦 『怪奇小説傑作集4 フランス編』 解説)



要するに、19世紀後半の象徴主義は、
この時点で萌芽していたわけで。


ちなみに、ゴシック文学の原点、ホレス・ウォルポールの「オトラント城」が
フランスで翻訳されたのは1767年だったとのこと。

毒々しい中世趣味に彩られ、廃墟や幽霊や破戒僧などが登場する英国のゴシック・ロマンスは、
大革命の血なまぐさい恐怖によって、感覚や趣味を麻痺させていたフランスの大衆の間で、
大いに読まれたのでは、と澁澤は述べている。



そして、彼らに大きな影響を与えたと思われる、ホフマンの作品が
初めてフランスに紹介されることになったのは、1828年。

そのわずか数年後、テオフィル・ゴーティエは、弱冠20才にして、ホフマンを賞賛する
文章を発表したりしているけれども

彼の作品「オニュフリユス」は、明らかにホフマンの影響が見て取れる、
狂気に満ちた凄まじい作品。


ゴーティエ、ノディエ、ネルヴァル、ボレルらの素晴らしい作品が、
ここ日本では殆ど読まれていないどころか
出版すらされていないのは、寂しいかぎり。






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Louis Welden Hawkins, The Veil,
1890



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