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れうれう、いかいか(2) [言語・記号]

ubume_2.jpg




この世でいちばん怖い音ってなんだろう、
と考えてみた。

まず、何かが大規模に破壊されるような音、つまり、
雷が落ちたときの音とか、地震の音、或いは爆発音だろうと思う。
あとは、歯医者の歯を削る音なんて最凶。

でも、それらの音は、命に危険が及ぶとか、激しい痛みを連想させるわけだから、
恐いのは当然。

ではそういったものを除けば、何が怖いか、というと、私の場合は、

しーんと静まり返った真夜中に響く、赤ん坊の泣き声、
だと思う。

想像しただけで怖ろしい。。

でも、なぜ、赤ん坊の泣き声がそんなに怖いんだろう。
そこには、なにか人類共通の、恐ろしい記憶でもあるんだろーか。




ところで、以前の記事で、「れうれう、いかいか」という言葉が怖い、
ということを書いたことがあるけれど、
最近、澁澤の『東西不思議物語』をぱらぱらとめくっていたら、この言葉が取り上げられていた。

それは、今昔物語の巻二十七の、源頼光の四天王のひとりである卜部季武が、
美濃の国のある渡し場で、ウブメに会ったときの話。(こちらを参照)

ちなみにウブメとは、産女の訓読みで、姑獲鳥とも書き、
京極夏彦の作品にそのようなタイトルのものがあったけれど、
お産で死んだ女の幽霊だとか、雨の夜などに不吉な声で鳴く鳥の一種とも考えられていたらしく。

こちらは、江戸時代の『百怪図巻』より。めっちゃこわい。。

Ubume.jpg




で、美濃のある国の川に、ウブメが出るという評判があり、
ウブメは子供を抱いていて、川を渡る者に、「この子を抱いてください」、と声をかけると。

なんかどこかで聞いたような話という気もするけれど、とりあえず措くとして
その話を聞いてみんな恐がっていたところ、季武は、自分は平気だとして、ある九月の夜に、
その川を渡りに行く。(この「ある九月の夜に」ってのが、なんかいいなぁ)

すると、

「河の中ばの程にて、女の音(こえ)にて、季武に現(あらわ)に「これだ抱け抱け」というなり、又、児(ちご)の音にて、いかいかと哭くなり。」(中略)
ちなみに、「いかいか」というのは赤んぼの泣き声で、オギャーオギャーというようなものである。

(澁澤龍彦 「鳥にも化すウブメのこと」、『東西不思議物語』)



うーん これは恐い。。
赤ん坊の泣き声を「いかいか」と表現することで、なんともいえない異形性が醸し出されて、
日常の空間が突然切り裂かれたような、異常なイメージがパッと浮かぶ。

「泣く」のではなくて、「哭く」っていう表現がまた、能條純一的でいいなぁ。


このエッセイの最後に、澁澤は以下のように書いている。


『百物語評判』には、「産の上にて身まかりたりし女、その執念このものとなれり。その形、腰より下は血に染みて、その声をば、れうれうと鳴くと申しならわせり」とある。
「れうれう」とか「いかいか」とかいった昔のオノマトペ(擬声語)が、私には、何だかひどく無気味なものに聞こえるが、いかがであろうか。

(引用同上)



全く同感。


それにしても、澁澤はよく『今昔物語』を引用するけれど、それってつまり、
それだけ面白い話がたくさん載っているっていうことなんだろうな。

学生のころに読んだおぼえがあるけれど、内容は完全に忘れているので
そのうち読み返したい。






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鳥山石燕 『画図百鬼夜行』より「姑獲鳥」


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