SSブログ

夏と詩歌 [言語・記号]

YokohamaPark_PICT5309.JPG



今歳水無月のなどかくは美しき。

軒端を見れば息吹のごとく

萌えいでにける釣しのぶ。

忍ぶべき昔はなくて

何をか吾の嘆きてあらむ。

六月の夜と昼のあはひに

万象のこれは自ら光る明るさの時刻。

遂ひ逢はざりし人の面影

一茎の葵の花の前に立て。

堪へがたければわれ空に投げうつ水中花。

金魚の影もそこに閃きつ。

すべてのものは吾にむかひて

死ねといふ、

わが水無月のなどかくはうつくしき。



伊藤静雄 「水中花」




急速に夏が終わっていく。

行く夏が惜しまれてなりません。


先日見つけた、日本の夏の生命感のようなものに溢れた、
伊藤静雄のこの美しい詩、

堪へがたければわれ空に投げうつ水中花
金魚の影もそこに閃きつ
すべてのものは吾にむかひて死ねといふ、

という部分が、凄みにみちていて素晴らしい。

日本の夏はほんとに暑くて、いろいろたいへんだけど、
やっぱり、夏が終ると思うと、さびしい。毎年のことながら。
なんだかんだいって、私は日本の夏が好きだし。


今年の夏は、叙情的な感覚にひたりたい気分で、
田舎のほうに出かけてみたり、叙情的な詩集を読んでみたりしようかな、
なんて思ってたけど

結局なにもしてない。

うう。


ところで私の中で、夏の叙情性といえば、どちらかといえば
7月の明るさと生命力の強さよりも、8月の残暑に見られる倦怠のようなものに
見られるもの。
避暑地の涼しさ・爽やかさよりも、ふつうの田舎の、ふつうの暑さ。
裏山と水田。

蝉の鳴く声以外にはなにも聞こえず、風も吹かず
なにかが、少しずつ、弱っていくかんじ。

上に引用した伊藤静雄の詩は、最近見つけたものだけれど
どちらかといえば、6月から7月の生命力を感じさせるもので、
お盆以降の、いわゆる残暑の倦怠を表現した詩というのは思いつかない。

先日の記事を書いてて思い出したので、十代後半の頃にはまっていた
立原道造の詩集をものすごく久しぶりに少し読み返してみたけれど

今の私には、甘すぎて、青すぎて、、とても読めたものじゃなかった。



ちなみに「詩歌」とかいて「しいか」と読むけれど、
これをちゃんと読めるひとは日本にどれだけいるんだろう、と思ってしまう。

「しか」でなく「しいか」であることがとても大事で、
そこにとても味わいというか、重みもあるというか、
日本語の良さを感じることばのひとつであり、
大事に守っていくべきものだと思うのは私だけだろーか。

誤読が定着して、いつしか本来の読み方にとってかわってしまう、
というのは、日本語の歴史上割とあることで、まあ、ことばは生き物なので、
仕方がないとも思うけれど、

でも、それによって、その言葉が本来持っていた味わいが失われるのであれば悲しいし
放っておけばそういうことはどんどん進んでしまうので
美しいもの、味わい深いものは、大切にしたいところ。

日本人は、美しいものに対して無頓着な人が多すぎる。

少なくとも、富士山は世界遺産になる前もなってからも
その美しさは変わってないよ。






伊東静雄 (講談社文芸文庫 すD 3)

伊東静雄 (講談社文芸文庫 すD 3)

  • 作者: 杉本 秀太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/05/08
  • メディア: 文庫



日本の詩歌〈第23〉中原中也,伊藤静雄,八木重吉 (1968年)

日本の詩歌〈第23〉中原中也,伊藤静雄,八木重吉 (1968年)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1968
  • メディア: -




日本語はだれのものか (歴史文化ライブラリー)

日本語はだれのものか (歴史文化ライブラリー)

  • 作者: 川口 良
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2005/04
  • メディア: 単行本



日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で

  • 作者: 水村 美苗
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2008/11/05
  • メディア: 単行本



日本語は亡びない (ちくま新書)

日本語は亡びない (ちくま新書)

  • 作者: 金谷 武洋
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2010/03/10
  • メディア: 新書




写真は横浜公園にて。



nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

ローマ人の物語あまちゃんと台風。 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。