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プロメテウスの火 [歴史・古代文明]

Moreau_Prometheus.jpg



19世紀フランス象徴主義を代表する画家、ギュスターヴ・モローによる
プロメテウス (Prométhée) は、私の好きな絵画。

(参考)
http://www.salvastyle.com/menu_symbolism/moreau_promethee.html

プロメテウスは、いわゆるプロメテウスの火で有名なギリシャ神話に出てくる神。
すなわち、

ゼウスが傲慢になった古い人間を大洪水で滅ぼし、新しい人間と神を区別しようと考えた際、彼はその役割を願い出でて、了承を得た。

ゼウスは人類から火を取り上げたが、プロメテウスは、自然の猛威や寒さにふるえる人類を憐れみ、火を盗んで人類に与えた。
火を使えるようになった人類は、そこから生まれる文明も手に入れて、製鉄などを発展させる一方で、それを兵器として用いるようになり、争いの原因ともなった。

怒ったゼウスは、権力の神クラトスと暴力の神ビアーに命じてプロメテウスを岩山に縛りつけ、生きながらにして毎日肝臓をハゲタカについばまれるという責め苦を強いた。



というお話。
私はギリシャ神話にはくわしくないけれど。
ていうか人間関係(神だけど)が複雑すぎて、いちいち覚えられないよー。

何がきっかけだったか忘れたけど、昨年、そのプロメテウスの神話を題材にした
アイスキュロスの 『縛られたプロメテウス』 を知って、購入。

でも、読まずに数ヶ月。 
まあ、買ったけど読まずに放置、というのは私にはよくあるけど、それを先日、一気読みした。

それはプロメテウスが岩に縛り付けられる場面から始まる。

印象的だったのは、これが2000年以上も前に書かれたものか、とびっくりするくらい
溢れる気概、気高さ、そして格調の高さが感じられること。

ただ、対話でひたすら進んでいく為、ドラマ性に欠け、
例えば同じギリシャ悲劇の 『オイディプス王』 などと比べると、正直、面白いとは言い難い。
これを演劇で見たら、けっこう退屈なんじゃないかなー。


しかし。
非常に興味深いというか、私がハッとさせられたのは、
プロメテウスとゼウスが、人類に対して何をしたか、ということ。


「彼ら(人間)はもともと、何かを見ても、ただいたずらに見るばかり、聞いてもさとるわけでなく、さながら夢の世界の幻のよう、命の限りを、ゆきあたりばったりに過ごしていった、また温かい煉瓦造りの家とても、材木の仕立てようとて知らずにいて、ちっぽけな蟻どものよう、地面の下の日も当らぬ洞穴の奥どに住まいしていた。

彼らにとってはあらしの冬も、花咲き匂う春の日も、また実りたわわな夏の日を見分ける定かなしるしとてもなく、ただ無考えに、なにもかもやっていたのだ、私が星辰の昇る時刻や、見分けとてもつけがたい、その没る時刻を教えてやるまで。

また富貴を極める者の豪奢な荘厳にもと、馬どもを手綱にならして車につけた。白帆の翼に海上を翔ける、船頭たちの乗り物を造ったのも、私にほかならない。」


つまり、「人間どものもつ技術(文化)はすべてプロメテウスの贈物だと思ったがいい」、ということ。

古い人間を大洪水で滅ぼした?
新しい人間を創ろうとした?
神が人間に技術を教えた?



これを読んだ後に、『歴史をいかに学ぶか』という本を読んだのだけれど
これも非常に面白かった。


歴史をいかに学ぶか―ブルクハルトを現代に読む (PHP新書)

歴史をいかに学ぶか―ブルクハルトを現代に読む (PHP新書)

  • 作者: 野田 宣雄
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 1999/12
  • メディア: 新書



私はブルクハルトに関しては、そういう歴史家がいることを知っていた程度で
その著作を読んだことはないし、どんな思想をもっていた人なのかも知らなかった。

印象的だったのは、人間の歴史は、進歩の歴史ではない、ということ。
我々は、しかしながら、人間は進歩してきたと思っているし
ふつう、それについては何ら疑問を抱いてはいない。
ブルクハルトが最も警戒したのは、現代に近づくほど人間精神は完成に向かっているとみなすこと、
即ち進歩史観だった。

ブルクハルトは言う。

「現代は、長らく文字通り『進歩』と同一視されている。そのことと結びついているのが、あたかも精神、いや倫理性さえもが完成に向かっているという(現代人の)笑うべき自惚れである。(中略)
すでに過去に一人の人間が他の人々のために命をささげたとするなら、それ以後(倫理性において)それを超えたためしはなかったのである」


我々現代人が、人間は進歩し続けてきて、その完成に向かっているかのように思っているのは
いわゆる進歩史観にそれだけ染まっている、ということでしかない。

確かに、上に書いたように、『縛られたプロメテウス』を読んで私が驚いたのは、
そこに見られる気高い精神性であり、それは既に、2000年以上も前に「完成」していたわけで。

必ずしも人間は進歩していないし、同じようなことを繰り返しているし、
進歩だとか完成だとかいった目的は、歴史にはありはしない。
いや、そもそも何の目的もありはしない。

それを認識させられて、目からウロコだった。



さて前置きはこれくらいにして(長い)、本題に入ると、

ここで思うのは、しかし、はたして科学技術の面でも、人間は本当に進歩し続けてきたのだろうか、
ということ。

それこそアウストラロピテクスからクロマニヨン人、古代文明を経て現代に至るまで、
一直線に、右肩上がりに進歩し続けてきたのだろうか。

私は最近、古代文明や、古代遺跡にはまっているのだけれども、
それにはまればはまるほど、技術や文明の進歩というものを、大いに疑問に思うようになった。

そんな中、読んだのが、このプロメテウスの話で、
だからこそ、いろいろ、これは!?と思ってしまったわけで。
古代遺跡にはまっていなかったら、そんなひっかかりは何もなく、
ただ、なんかあまり面白くなかったなー、で終わりだったと思う。

『縛られたプロメテウス』を買ったのは、古代文明にはまる前だった。
それを今まで読まずに放置していたというのも、広い意味でシンクロニシティ。
読まずに放置するというのはつまり、その本は私にとって読むべきときがある、ということなんだ。


で、この神話は、いったい何を意味しているのかと。
プロメテウスが全ての技術・文化を人間に与えた、というのは、
古代のギリシャ人の、言ってみれば、勝手な想像力の産物、
つまりフィクションにすぎないのだろーか。

そうではなくて、これは実際に起こったことなのではないだろうか。。 
そう思えて仕方がない。

超古代文明でも宇宙人でもなんでもいいけれども、なにかしら
高度な技術を持った存在が、当時の人間にいろんな技術や知識を教えた、
そして、
それらの知識や技術が、当時の人間の目にはあまりにも素晴らしいものと映ったため、
彼らは、神と崇められたのではないか、、

私には、プロメテウスの神話は、まさにこれを裏付けるものだとしか思えない。


私が言ってることは、ただのトンデモだろうか?


もちろんこれを証明するのは、極めて難しいというか、たぶん永遠にムリなのだろうけれど、
可能性としてそんなことは100%無い、と断言することもできないと思う。

万が一それが事実だと証明されれば、世界史というのはひっくり返されてしまうし、
少なくとも、私の中では、それまでの私にとっての「世界」の認識が、音を立てて崩れおちるような、
戦慄のようなものをおぼえる。 なぜかそれが私は恐い。

この恐怖は何なのだろう。

恐いものみたさ?
恐いような、でもなんだかワクワクするような、小学生みたいな気分を味わってるのも確か。



ちなみに、プロメテウスの弟は、パンドラの箱で有名なパンドラをゼウスから与えられるエピメテウス。
「プロ pro」は「先に」、「エピ epi」は「後に」を意味する接頭語、「メテウス」は「知恵」を意味する。
従い、
「プロメテウス」は、先見の明を持つとか、行動する前によく考える、
「エピメテウス」はその逆に、後から考える、後の知恵、という意味があるらしい。





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