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澁澤龍子さん・澁澤龍彦との日々 [文学・思想]

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澁澤はよく「おまえがもっと白痴ならいい」と言っておりましたし、わたしも思考というものを停止させて、子猫のようにかわいがられ、ときどき爪をたててひっかいたりしながら一生を過ごすのが最高と思っていたのです。

(澁澤龍子 『澁澤龍彦との日々』)





澁澤龍彦の奥さん、澁澤龍子さんが、澁澤との日々を綴ったエッセイ、
澁澤龍彦との日々」を読んだ。

この本が出たのは2005年なので、もう10年近く経過しているけど
私は当時、これが出たことを知って、なんだか複雑な思いがしたと記憶している。

読みたいような、読みたくないような。

ここにはたぶん、とても感動的なお話などもかかれているだろうけれど、
それと同時に、知りたくなかった澁澤の一面なんかも書かれているんだろうな。

私が好きなのは、俗世間を超越した、彼のドラコニア・ワンダーランドなのであって
彼の日常生活だなんて、そんな俗な話、聞きたくないような。。

などと思い、うーん どうなんだろう、と思ってしまって、
結局、手にとることはなかった。

それが、最近知り合った人の強い薦めがあって、かなりためらいながらも、
読んでみた。

結論を言えば、本当に、いい本。
とても、胸を打たれた。

感動という一言では表現しきれないくらい、いろいろな感情がわいてきたし、
なんともいえない、不思議な気持ちになった。

澁澤の、俗な日常生活が書かれているのでは、だなんて
そんなことは、杞憂でしかなかった。

龍子さんの、愛とやさしさだけでできているような本。
というか、2人の日常自体が、愛とやさしさとでできていて、
それが、夢のようななにかで彩られていた、というか。

それが、むしょうに、泣けてきた。


ところで、たとえば、ひとくちにいい本といっても、
単純に面白い、美しい、感動する、とか、
自分の世界観を突き崩すようなことが書いてあるとか、勉強になるとか
いろいろだけれど、
たいていは、早く続きがよみたい、と思うもの。

でもこの本は、そうは思わなかった。
なんだか、読みすすめるのがもったいないような、じっくり、ゆっくり読みたいような、
そんな感じのする本なのである。

こんなことはめったに無い。

面白いとか感動的なんてことばでは表現できない、
なにか、読んでいると、ふんわりとやさしく暖かいものに包み込まれているような、
とても不思議な感覚にとらわれる、そんな不思議な本。


そういった愛にあふれた本でまず思い出したのは、例えば、
岡本敏子さんの本。

そこにも、愛とやさしさはもちろんあふれているんだけれど、
龍子さんと敏子さんとでは、その描く世界とその印象は、かなり違う。

敏子さんは、やはり太郎のような激しい人を支え続けた人だったからか、
やはり、気丈だとか、強さだとか、要するに、
太郎という手のかかる子供を見守る強い母のようなイメージが感じられる。

龍子さんにとっても、澁澤は世間知らずで、子供のような面があったので、
手のかかる人だったようだけれど、気丈さとか、母親的なイメージは感じられない。
ただひたすら、澁澤との生活を、ふわふわと、ゆるゆると、
楽しく幸せに送っていたんだなあ、という、不思議な幸福感がそこにはある。


澁澤との日々を改めて考えてみると、世間一般でいう、いわゆる家庭生活というものがあったのか疑問に思います。地に足をつけて、しっかり日常を生きるというよりも、今でもそうなのですが、幻想の中に生きているような、夢の中にいるような生活だったと思うのです。同時に、澁澤は毎日の暮らしをとても楽しみ、大切にした人でした。



そこに漂う幸福感がこちらに強く伝わってくるし、そこに感動をおぼえる。
これも龍子さんのお人柄なんだろうな、と思う。
本当に、愛にあふれてる。

でも、そんな幸せな生活は18年しか続かなかった。
そして、この本が出版された時点で、澁澤がなくなってからも同じく18年。

18年を長いととらえるか、短いととらえるか、
それは人それぞれだろうけれど、
これを龍子さんが書いたときには、澁澤はもうそこにはいなかったし
それがやっぱり、せつないし、悲しい。



私は、今まで結構な量の本を読んできたけれど、
こんなにも、一冊の本を愛おしいと思ったことは、無かったと思う。
どうしてこんなにも愛おしく思うのか、自分でも、よくわからない。
いつかわかる日がくるのかもしれない。


でも、この本は、誰にでもすすめられるような本ではない。
この本を読んで胸を打たれたり、愛おしいと思ったりするとすれば、
それはやはり、
澁澤がどんな本を書いていて、どんな世界観を持って、どのような人生を送ったか、
ということを知っているから、であり
彼の本を読んだことも無ければ、興味も無い、という人にはおすすめできないけれど
少しでも彼に興味がある、知っているという人には、おすすめしたい。
きっと、とても大切な本に出会えた、と思っていただけると信じている。


一冊の本との出会いによって、こんなにも愛を感じ、愛と幸福について考えさせられたのも、
久しぶりだった。

なんだか、幸せな気持ち。

龍子さん、本当に、ありがとう。




「あなたが死んだら髪をおろして庵を結ぶからね」なんていつも言っていたのに、ふわふわと、なんだか楽しげな毎日を送っているわたし、彼はきっと怒っているでしょうね・・・・。






澁澤龍彦との日々

澁澤龍彦との日々

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  • 発売日: 2005/04
  • メディア: 単行本



澁澤龍彦との日々 (白水uブックス)

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  • 作者: 澁澤 龍子
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澁澤龍彦との旅

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  • 出版社/メーカー: 白水社
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