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春と偶像 [文学・思想]

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いや、いや、偶像でなくってどうします。御姿を拝まないで、何を私たちが信ずるんです。貴下、偶像とおっしゃるから不可ん。

  唯、人と言えば、他人です、何でもない。これに名がつきましょう。名がつきますと、父となります、母となり、兄となり、姉となります。そこで、その人たちを、唯、人にして扱いますか。 偶像も同一です。唯偶像なら何でもない、この御堂のは観世音です、信仰をするんでしょう。

しかし、人には霊魂がある、偶像にはそれがない、と言うかも知れん。その、貴下、その貴下、霊魂が何だか分らないから、迷いもする、悟りもする、危みもする、安心もする、拝みもする、信心もするんですもの。
的がなくって弓の修業が出来ますか。軽業、手品だって学ばねばならんのです。
偶像は要らないと言う人に、そんなら、恋人は唯だ慕う、愛する、こがるるだけで、一緒にならんでも可いのか、姿を見んでも可いのか。姿を見たばかりで、口を利かずとも、口を利いたばかりで、手に縋らずとも、手に縋っただけで、寝ないでも、可いのか、と聞いて御覧なさい。
せめて夢にでも、その人に逢いたいのが実情です。
そら、幻にでも神仏を見たいでしょう。

(泉鏡花 「春昼」)



偶像というものについて、これほどうまく表現しているものを私は知らない。

宗教によっては、偶像崇拝を禁じているものもあるけれど
やっぱり偶像を求めてしまうのが、人間なんだなー、と思う。


今年も桜が咲いた。
あっというまに散ってしまったけれど
今年は夜桜をたくさん見れた。

ここに人間味が感じられるのはなぜだろう
夜桜を見て、そう思った。

恋に悩んでいる人間、
或いはこれから何か行動を起こそうとしている人間

そんなものを感じた。

すべての生命はつながっているのかもしれない。

日本の春は、なんて豪奢なのだろう。



今日も寒いなぁ。






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